ノーバート・ウィーナーの自伝

最近ノーバート・ウィーナーの自伝、「神童から俗人へ」を読んだので、内容について少し残しておこうと思います。

 

彼はサイバネティクスと言う学問を作り出した20世紀の学者です。現在の情報通信技術の礎を築いた人物の一人として、情報技術に教養のある現代の技術者なら名前を聞いたことがあるであろう、そんな人です。

本書では彼の業績の中身にはほとんど触れず、生まれてから、どういう経緯で30才過ぎにMITの教授に就いたかを時系列に沿って記してあります。

 

思い切って三行にまとめてみますと、

  • ユダヤ系アメリカ人として1894年に生まれる
  • 言語学者であった父親にスパルタ教育を受けて、15歳でハーバード大学院に通う
  • 父親には哲学を志すよう強いプレッシャーを受けたが、最終的には数学の世界に身をおくことになる

大体こんな感じです。

本書は非常に論理的に記述されており、また3才ごろの描写であっても固有名詞がバンバンでてくる、その記憶力には驚かされます。そんな彼について生来の俗人であるぼくには気の聞いたコメントは出来ないので、彼が生きた時代に焦点を当てて印象的だった内容を2点紹介してます。

 

20世紀初頭のアメリカとヨーロッパ

彼が物心ついてから青年となって行く時代はユダヤ人に対する風当たりがアメリカでもきつかったようです。ユダヤといえばナチス、反ナチスといえば連合国=アメリカと連想されるので、意外でした。今やユダヤはアメリカにおいて政治力を握っているといわれていますが、その苦渋の歴史がうかがえました。

一方、一次大戦のころはボストンの学者の間では「r」を発音できないドイツ風をふかしたスタイルが流行だったそうです。これも今では考えられないですよね。つまり当時のアメリカは学会は、ヨーロッパから見ると二流だったのです。確かに南北戦争が終わってから1世代とちょっと巡ったくらいの時期なので頷けます。

こうして見ると20世紀においていかにアメリカが変わったのかが分かります。反面ドイツは今も昔も影響力の大きな強国ですね。

 

 第一次大戦

もし現在ぼくが徴兵されて、「戦場に行って来い」と言われたらかなり辛いです。アメリカでも戦場から帰ってきた兵士がPSTDにより苦しんでいたりすることが報道されていたり、世界的に戦争に対するイメージはかなり悪いですよね。

時代が第一次大戦に突入して戦争ムードがアメリカ国内で出てきたころ、ノーバートは軍隊を志願します。彼は決して血気盛んな、愛国心が高い若者とは本書では描かれておらず、むしろ内気で思慮深い少年といったイメージです。そんな彼が兵役に何度も志願して、適正試験でよい結果が出せずに苦悩していたそうです。

ユダヤ人である彼がドイツのユダヤ排斥主義に対して戦争の意義を感じたのでしょうか?詳しくは本書からは分かりません。ただ当時は今と戦争に対するイメージが大きく違っていたようです。

 

全体として淡々と事実を並べて、客観的な文章で進めていく本書はいかにも数学者の自伝といった雰囲気が出ており、読み進めていくだけでも頭の体操になりそうです。ただ本書の最後に書かれた後の彼の妻との馴れ初めを読み終えて本を閉じると、なんかほっとしました。

 

神童から俗人へ

神童から俗人へ